2020年3月31日火曜日

東京経済大学、2020年度関ゼミ選考を実施

 317日(火)と27日(金)に勤務校東京経済大学で2020年度ゼミ選考を実施した。応募者22名中、合格者は12名。今年も狭き門となった。合格した方、おめでとう!不合格だった方、過去には関ゼミ不合格が転機となり大成した方も少なくない。他の場所での活躍を期待する。

 まだ第3会選考を残すがそこで合格する方はごくわずかだ。つまり現段階で来年度のゼミ生はほぼ確定した。合格者には早速、ゼミ長から春休み課題通達のメールが届き、LINEのグループも出来上がったと聞いた。春休みの課題はややヘビーだが、厳しい選考を勝ち抜いた面々、きっと素晴らしい作品を提出してくれるだろう。

 さて、近年の関ゼミは異文化交流や多文化共生をテーマとした実践的な学びを特徴としている。多様な他者との交流を促進するため、学内に留まらず、国内外の様々な学生たちと交流することを重視している。
一例として年度は智大学総合グローバル学部の新4年生の方一名がゼミに参加する。
 東京経済大学のゼミに、上智大学の学生が参加するのは奇妙に見えるかもしれない。しかし、それには意図がある。
 関ゼミの「到達目標及びディプロマシーとの関連」では、「多様な他者との交流に向けて、必要とされる多文化理解力を身につけ、実行に移すことができる。昭典 総合教育演習シラバス)と明示している。
 関ゼミのこれまでの活動から、他者=外国人=英語コミュニケーションと勘違いをする学生が多い。しかし、ここでいう「他者」は外国人に限らない。文字通り「他者」とは「自分以外の人」。自分以外の関ゼミ生、関ゼミ生以外の東経大生、東経大以外の東京の学生、東京以外の日本の学生、すべて「他者」である。関ゼミの活動に共感する学外の学生と共に活動することでゼミ生にはぜひ新たな視点を得てほしい(今後も、いろんな大学の学生が登場するはず)。東経大コミュニティの中だけでは遭遇しないかもしれない、新文化との出会いをお楽しみに!

 新型コロナのせいで、授業開始がおくれそうだが、みんなで集まって本格的な活動ができる日を心待ちにしている。

2020年3月29日日曜日

英語学習について(2013年の日記より)

 今後、過去につけていた日記もときたま紹介していきたい。
以下は2013年1月の日記、当時私はネパール在住。

 昨日のことです。ネパール人の大学生と仕事の打ち合わせを兼ねてランチを共にしました。その方、日本人と時間を過ごすのは私がはじめてだそうで最初は緊張していましたが、すぐに打ち解け結局二時間以上以上も話しこみました。彼女は外国に言ったことはありませんが外国に関する興味・関心が旺盛で私に質問攻めでした。
 一番印象に残ったシーン。「日本にいた頃は、夏休みに日本の高校生や大学生を引率してカナダや、イギリス、オーストラリアによく行った」と私の経験を話したときのことです。彼女は、
いいなぁ、日本人はチャンスがたくさんあって。ネパール人には長期休暇に外国で勉強するお金がある人などほとんどいないです。」
とコメントした後にこう質問しました。
「で、その学生さんたちは何を勉強しに外国に行くのですか?」
「英語を勉強しに行く」
「は?」
「英語、English」
「・・・イ、イ、イ、イングリッシュ?英語の勉強のためにわざわざ外国に出かけるのですか????」
「そう、日本人は英語を勉強するために外国に行くのです。」
「英語なんて、学校でやればいいのに何でわざわざ外国に行くのですか????」
彼女のあまりの驚きように、私は思わず吹き出してしまいました。
 そう、ネパールの皆さんには英語習得のために海外留学などという感覚は(私の知る限り)ないのです。経済的なゆとりがないのに加え、志ある人は英語ごときネパール国内で習得してしまいます。学校でしっかり学び、家でもたくさん練習し、読み書き含め外国人とのコミュニケーションに支障ないレベルまで到達します。
 日本ではTOEICなどの資格試験やそれに向けた学習が大ブームだそうですが、こちらの人々にはほぼ無縁です。ごく一部富裕層対象の大学や、本気で留学を志す人のみ(一発勝負で)TOEFL、IELTSを受験する程度です。学習教材は日本の人々が見たら驚くほどの質の悪さ。日本ではやりのEラーニングやモバイル学習などもっての他、PCを所有する人がごく少数ですし、そもそも停電時間が多すぎて(今は一日16時間停電です)話になりません。
 にも関わらず英語がうまい彼ら。相当な金額を英語学習に費やしているにも関わらず今だ苦戦している日本の人々とは対象的です。

 以下、私も関わったネパール生徒の英語ディベートコンテストの様子をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=9e7dxtgA2ZU

2020年3月28日土曜日

学生リーダーについて(吉川夕葉編)

 以前に「リーダーの資質」という記事で私はこれまでのAAEE日本の学生リーダーが備えていた共通の特徴を4つ挙げた。

①何かしらフラストレーションを持つ
②潜在能力がある
③異文化交流や国際協力に興味がある
④自己と真剣に向き合える

 今回の記事では具体例として2016年ネパールプログラムリーダー、翌2017年ベトナムプログラム副リーダー、2016年~2019AAEE学生リーダーを務めた吉川夕葉さん(以下夕葉)について紹介する。
 なお、今回の記事は夕葉の大学卒業を祝してインスタグラムでコメントした内容を引用してある。

①何かしらフラストレーションを持つ

 夕葉と出会ったのは2015年まで遡る。
 2015年秋、その年の春にネパールを襲った大地震の復興支援について都内の高校で講演させていただいた。この講演に向けてはAAEEに所属する多くの上智大生に手伝ってもらったので、いただいた講演料を使って学生たちと我が家で盛大なパーティーをした。ほとんどは夏のネパール・スタディツアーに参加してよく知っている学生だったが、一人だけ見知らぬ女子学生がいた。それが夕葉。お人形のように身じろぎもせず、話しかけても声が小さすぎて会話すらうまく成り立たない。威勢のいい元気な学生たちに囲まれて存在感がなさすぎて、逆にそれが印象に残った。彼女がその後AAEEの大黒柱として大活躍することなど全く予想だにしなかった。

 「AAEEリーダーの特徴」①何かしらフラストレーションを持つ
 自分の実力を発揮するチャンスを与えられずにモヤモヤとしている人。その時点で周囲からあまり注目されていない人」(「リーダーの資質」2020,3,19
 夕葉と出会ったとき彼女はとても寡黙な少女だったが、心の中では「自分を何とかしたい」という思いでいっぱいであるということを後に聞かされた。「こんなんじゃ、社会人になって通用しないことはわかっているんです。自分がダメすぎるんです」親しくなってくると、彼女は自分自身に対する強いフラストレーションを打ち明けてくれた。

②潜在能力がある

 「雨降って地固まる」というが、20162月のネパールのMero Sathi ProjectAAEEにとってはただの「雨」ではなく「雷雨」に近かった。
 ネパール・インド間国境封鎖による物資不足やそれに伴う政治不安、ストライキの頻発に悩まされたがそれは想定内。しかし加えて想定外の珍アクシデントに見舞われ、プログラム全体が謎めいていた。

 例えば、教育問題を観察するために標高3000メートルの村までようやくたどり着いたのになぜか学校はお休み、代わりに待っていたのは謎の「フクロウ祭り」。学生たちは全員フクロウのお面をかぶり踊らされた。その模様がなぜか中国の新華社通信の記者を通じて詳細に報道された。あれは何だったのか笑。聞かされていないスポーツ大会にも参加させられ、今年東大の卒論最優秀賞を受賞した当時一年生の学生は砲丸投げで、みるも無残に村人に敗れた笑。極めつけは日本学生リーダー吉川夕葉(当時大学1年生)。彼女の珍リーダーシップにも度肝を抜かれた。「リーダーを体験したことがない」と聞いていたがここまでとは・・・。今振り返っても大爆笑の珍リーダーシップの数々。ただし夕葉にとってもAAEEにとってもこの経験が次への大きなステップになったことは間違いない。忘れてはいけないのは私は教育者でありAAEEの活動は私にとっては人材育成活動である。ここでの活動を通じて成長してくれればいいのだ。

 年次から珍リーダーながらAAEEフルコミット宣言をして周囲をアッと言わせた夕葉。さらに「私、関先生の下でとにかく何でもやりますから」と小さな声で弟子入り宣言!目が点、思わずのけぞってしまった。
 「それならば」と、あえて夕葉の苦手分野を狙い撃ち(通常のアプローチとは真逆)。司会、発表、人前での踊り、初顔合わせの人々と仲良くなれ指令などなど。予想通りに見事にこけまくったが、彼女のすごいところは、打たれ続けても倒れそうで倒れないところ。というか、打たれていることに気がつかないのかもしれない。

しかし彼女にも限界があった!2016年のベトナムプログラムで見事にノックダウン。
 2016年のベトナムプログラムは、避暑地として有名なランドン省ダラット高原で開催された。この年の参加学生はベトナム、日本双方ともに最強にエネルギッシュ。日本副リーダーの吉川夕葉は周囲のパワーに完全に押されて潰れてしまった。ある日のこと、皆で山頂の綺麗な景色を楽しんでいる最中に夕葉の口からとんでもない一言が。
「ここから飛び降りたら日本に帰れるかな・・・」目にはうっすらと涙・・・。
 皆ドン引き。私はすかさず答えた。
「飛び降りたらホーチミンの病院に入院してずっと日本に帰れないよ」
 それを聞い夕葉は「あっそうか。じゃあやめた」。
 崖っぷちでの私と夕葉さんの不気味なやり取りを日本メンバーは唖然としながら見つめていた。

 その夜、楽しそうに談笑する皆をよそに、私は彼女を呼び出し深夜に集中砲火。「リーダーなのに何故他の皆に心配をかけるのか!」「自分の発言が周囲に影響を与えることをよく考えないと」夕葉には言い返す力は残っていなかった。ノックダウン。「あー、これで夕葉も終わりかなー」と思っていた。しかし、彼女は再び立ち上がった。一ヵ月後にAAEEの本質を突く見事な報告書を提出。(「社会の動きと人間の関係性」)
 観察力、想像力、表現力、いずれもずば抜けていることを再確認した。ノックダウン状態でも彼女の心はしっかりと機能し必死に自分探しをしていたのだ。

 AAEEリーダーの特徴」②潜在能力がある
 「リーダーとしての力を発揮するために最低限の能力や知識、精神力は備えている人達である。といっても、ここでいう能力、知識とは学校の通知表での尺度とはかなり異なるため、『え、まさかその人』と意外に思われるような人がリーダーとなることもある。もちろん奇を衒った選考をしているわけではなくあくまで本人の希望でリーダーは決まる。おそらく実力を備えていない人は希望してこない。もしくはリーダーとして続かない」(「リーダーの資質」2020,3,19
 このプログラムを通じて彼女の潜在能力の一端を垣間見た。

③異文化交流や国際協力に興味がある

 ベトナムでノックダウンするすこし前、夕葉は僕に打ち明けていた。
「実は私一人でネパールの農村部に調査に行ってみたいんです」
突拍子のない一言だったのでその時はあまり相手にしなかった。そしてノックダウン後は全く音沙汰がなくなってしまった。帰国一ヶ月後くらいに久しぶりに電話して、ネパールの農村調査について確認したら泣き声で「私、ベトナムで相当やらかしたから、もう見捨てられたと思っていました・・・」とのこと。「そんなわけないでしょ!」そこからは急ピッチでネパールリサーチ準備開始!そして1ヶ月後にはネパールに一人で旅立ち、さらに二日間バスやジープを乗り継いで山岳地帯の貧困村での調査を実現してしまった。(あの奥地まで一人でたどり着いた大学生を私は他には知らない。)

 AAEEリーダーの特徴③異文化交流や国際協力に興味がある
 一人でネパールの農村部調査を決行した夕葉は、異文化交流活動への興味という点では十分すぎるほどに意欲的だった。

④自己と真剣に向き合える

 この頃から脅威の夕葉パワーが次から次へと発揮されることになる。農村調査名目で訪れたネパールでは、翌年のネパール学生交流プログラムに向けた数々の重要会議を一人ですべてこなして私を驚かせた。彼女は実はしたたかで極めて高い交渉力を備えている希少人材であった。
 ネパールから帰国後は、持ち前の生真面目さと内に秘めた最強のギャグセンス(本人は認識していない)を活かし、AAEEの足りない部分を細かな部分まで補強し、楽しい雰囲気づくりにも貢献してくれた。さらにメンバー内喧嘩の仲介、ホームページの内容修正、大学生の勧誘、100人規模のイベントでのスピーチなど、まさにオールラウンダーとして大活躍。堂々たるAAEE学生リーダーに成長した。まさに「大変身」である。

 AAEEリーダーの特徴④自己と真剣に向き合える
 「一度しかない大学生生活、貴重な時間を費やしてくれるのだからこの活動を通じて地球市民として大きく成長してほしいという思いがある。そのためにはただ言われたことを事務的にこなすスタンスの人だと、たとえその作業が完璧であろうとリーダーとしては通用しない。常に自身の生き方を模索し、この活動を自分の生き方とインタラクトさせることのできる人である」(「リーダーの資質」2020,3,19
 その言葉と照らし合わせると、吉川夕葉はリーダーという役割を果たしながら、地球市民として私の期待以上に成長してくれた。

2020年3月24日火曜日

異文化交流の学生の視点

 前回の記事「交流を通じた文化と学び」では異文化交流にあたって、国際交流プログラムホスト国の学生が緻密な事前準備をしていることについて触れた。
 今回の記事では彼らの事前準備にフォーカスしつつ、異文化交流プログラムの今後の課題についても触れてみたい。

 アジアのホスト国学生はプログラムに向けて、36ヶ月にも亘って事前準備を行う(無償のボランティア)。彼らの尽力無くしてプログラムは成り立たないと言っても過言ではない。
 
 彼らは特別なスーパーマンなどではない。私たちと同じ普通の人間だ。外国人慣れしているわけでもなく、むしろ外国人と交流したことがない学生がほとんどだ。
そんな彼らはなぜプログラムの準備という地味な役割を買って出ようとするのか、と不思議に思うかもしれない。彼らに尋ねると決まってこう答える。
「自分のスキルを高めたい。自分を向上させたい。」
自己成長に貪欲な学生たち。この貪欲さに毎回私は圧倒される。
 
 貪欲な学生たちが本気で作り上げられた作品(国際交流プログラム)が見応えがあるものであることは、以前に紹介した論文で記したので読んでみてほしい。 ベトナムと日本の学生による交流プログラムには日本、ベトナムからそれぞれ10名を選抜する。ここではベトナムの現地の学生を例にあげてみよう。

 ベトナムは社会主義国であるが国策として外国の文化から積極的に学び取ろうとしており、上位層大学生たちの外国語運用能力、とりわけ英語力は卓越している。彼らの特徴は、ベトナム国内で主に個人学習で英語を習得していることにある。ベトナムの学校の英語授業は日本のそれと大差なく、概して実用的ではない。
 
 ではどのように英語力を身に着けるかと言うと、努力、努力、そしてまた努力である。「日本にいては英語はできるようになれない」などと言う戯言を言う学生にぜひ見せて上げたい集団が参加してくる。
 
 ただし、必ずしも、英語が上手いから外国の知識にも優れているというわけではない。少なくとも日本に関しては教科書のステレオタイプの知識であることが多い。たとえば日本のイメージなら富嶽三十六景に描かれるような富士山やアニメ、秋葉原のオタク文化、サムライなどの固定化したイメージだ。

 プログラムで家から離れて2週間も外国人と生活を共にする機会は両親の心配を招くことすらある。ベトナムにしろネパールにしろ、大学生の親世代は外国に対して驚くほど保守的だ。
 しかし、実際2週間のプログラムが終わると「めちゃくちゃ良かった」と感動の声が飛び出す。外国人である日本人と2週間一緒に過ごす経験は彼らの心に果てしなく大きな文化的刺激を与える、自国のクラスメートともこんなに長い期間一緒に過ごしたことがなかったと口を揃えていう。
 
 彼らと過ごす2週間は私にとって学びが多くかけがえのない時間である。ただ、プログラムの最後に決まって思うことがある。
「いつか、目の前の日本の学生たちがしている経験を現地の学生にもさせてあげたい。」
 プログラム終了後、日本人学生は現地の学生と空港で見送ってもらう。毎回感動のシーン。
 日本の学生たちは、あたかも著名な芸能人であるかのように派手に見送られ夢心地だろう。涙を流して別れ、搭乗ゲートで美しい思い出に浸り、飛行機に乗って帰国。贅沢すぎる程の素敵な異文化体験。ただ、現地の学生たちの視点に立つと少し違うストーリーとなる。

 プログラムが終わり、空港に向かう。彼らの心の声
「日本人はいろんな国を旅できていいな。プログラム中から、次はどこの国に行くとか話していた。それに比べると私たちは金もないし外国など夢のまた夢だ。」
 空港に到着して涙のお別れ。
「また絶対に来てね。私たちはあなたたちに会いに行くことはできないのだから。(うらやましいなぁ)」
 心から親切な彼らは、日本の学生が視界から消えるまで大きな笑顔で手を振り続ける。そして静かにそれぞれの住む場所に戻り日常生活を継続する。
 
 
 いつか日本で同じプログラムを開催し、日本の学生がベトナムやネパールの学生を空港で見送る状況を作り出したい。これが私の今の夢だ。

2020年3月19日木曜日

リーダーの資質

 2008年度に学生主体の国際学生交流団体(AAEE, アジア教育交流研究機構を立ち上げ、今年で12年目となる。(詳細は→https://19b0304.blogspot.com/2020/03/blog-post_17.html参照)
と言っても最初の6年間は主に国外のアジア地域でのネットワークの構築に注力し、日本国内でその存在を知るのは私が勤務する大学のゼミ生や私の家族に限られていた。
2013年に一般社団法人化してからも限られたメンバーで勉強会を継続し、実験的な国際交流プログラムを通じてAAEE教育メソッドの教育効果の検証を重ねてきた。毎年国際学会で報告し、世界中の教育実践者からご助言もいただいた。小規模な活動を持続させることで、教育に関する新たな知見を得て世の中に還元できればいいと考えていた。

(1) 学生主体
AAEEの活動理念の1つは学生主体であることだ。各国の教育関係者がしっかりとサポートするが、計画し行動するのはあくまで学生たちである。成人を迎えて間もない大学生集団が現地の政府や国立大学も巻き込む国際交流プログラムを企画・運営することは、賛否両論があった。しかし、もし我々の理念に大きな欠陥があったとすれば、これまでに27回もの交流プログラムを開催することはかなわなかったであろう。

(2)学生リーダー
 学生主体の団体において、学生リーダーが果たすべき役割は極めて重要となる。日本国内でのリーダーシップに加え、教育関係者(日本の場合主に私)との協働、現地学生との協働が求められる。
ただでさえアジア諸国で2週間もの間、異国の学生と24時間一緒に過ごす異文化交流は容易ではない活動である。その上リーダーは中心となって活動をサポートするため、プログラムの狙いや意図の次元まで深く熟知する必要がある。そこまで熟知するためには当然長い時間をプログラムに捧げることになる。大学生活におけるプライオリティの一番上にAAEEの活動を持ってこられるくらいの覚悟がないとなかなか難しい。日本国内ではまだまだ知名度の高くない団体で無償ボランティア。これほど多くの条件を課されてなお、リーダーをやりたいと名乗り出るような学生が果たしていたのか?と思われるであろうが、なぜか毎年1人いた。その人たちは、常に私と連絡を取り続けてAAEEを取り巻く状況を把握し、プログラムを構築し、他イベントに参加して情報収集し、外務省やJICAなどとの連絡もこなした。

 

(3)AAEEリーダーの特徴

AAEEの活動が国内で本格化してきた2015年から現在まで、日本では5名の学生がリーダーとして活動を支えてくれた。内一名は私自身の息子なので議論から除外するが、それ以外の4名に共通するものは何か、ふと考えてみた。すると以下の3つの共通項目が見えてきた。

 何かしらのフラストレーションを持つ人

 潜在力がある人

 異文化交流活動や国際協力に興味がある人

 自己と真剣に向き合う人

以上の四点を持っていることが多いように感じる。それぞれどういう意味か以下に解説を付す。

 

① 何かしらのフラストレーションを持つ人

 自分の実力を発揮するチャンスを与えられずにモヤモヤとしている人。その時点で周囲からあまり注目されていない人。

 

② 潜在する実力がある人

 リーダーとしての力を発揮するために最低限の能力や知識、精神力は備えている人達である。といっても、ここでいう能力、知識とは学校の通知表での尺度とはかなり異なるため、「え、まさかその人」と意外に思われるような人がリーダーとなることもある。もちろん奇を衒った選考をしているわけではなくあくまで本人の希望でリーダーは決まる。おそらく実力を備えていない人は希望してこない。もしくはリーダーとして続かない。

 

③ 異文化交流活動や理念に興味がある人

 何よりも大切なのは異文化交流活動に深く興味を示している事だ。「私の履歴書#1」でも書いた事だが私自身「少年時代から、やりたくないことは生産性が極端に落ちる」性格の持ち主だった。

(https://19b0304.blogspot.com/2020/02/1.html)

 

④ 自己と真剣に向き合う人

一度しかない大学生生活、貴重な時間を費やしてくれるのだからこの活動を通じて地球市民として大きく成長してほしいという思いがある。そのためにはただ言われたことを事務的にこなすスタンスの人だと、たとえその作業が完璧であろうとリーダーとしては通用しない。常に自身の生き方を模索し、この活動を自分の生き方とインタラクトさせることのできる人である。

 

(5)予告

 次回の記事では実際にリーダーを務め上げた一人を例にとりつつ、リーダーシップについてより具体的に深めて語ることを予定している。

2020年3月18日水曜日

交流を通じた感動と学び

 一昨日まで、インドネシアのバリ島で開催された教育学会に参加し発表した。内容は、近年注力している国際学生交流活動の考察である。私はこの学会でほぼ毎年類似テーマで報告をしているため、楽しみにしてくれている方もいる。その一人(スウェーデン人)から質問された。
 「これほど熱心に取り組む活動を通じて、あなたは何を学生に与えたいのですか?」
 この質問への回答を以下に記す。

1.異文化との接触

 自文化の枠組み(コンフォートゾーン)から一歩出て、他文化の枠組みの中で適切に活動できるようになる力を高めたい。詳細は前回のブログで紹介した論文「多文化共生代における学生主体国交流プログラムの考察」を参照してほしい(https://19b0304.blogspot.com/2020/03/blog-post_17.html

 ところで、文化は様々に範疇化が可能であるが、その一つを紹介する。“目に見える”文化(表層文化)と“目に見えない”文化(深層文化)である。

 

表層文化

 “目に見える文化”体験とは、異国の料理を食べる、異国の伝統衣装を着る

などの活動だ。例えば、ネパールでダルバート(ネパールの国民料理)を食べる)、ベトナムでアオザイ(女性の伝統服)を着用するなどがそれにあたる。一方、“目に見えない”文化とはもっと心の奥底に根付く常識や価値観などを指す。例えば家族感、幸福感、教育感など。

 

(2)深層文化

“目に見える文化”に触れるチャンスはその地に身を置けば容易に触れることができる。しかし“目に見えない”文化に触れるためにはその地に生きる人々との交流や対話が不可欠となる。深層文化は最初は表層文化に深く覆われているが、表層部分での交流を深めていく中で少しずつ姿を現してくる。そしてこの深層部分の文化交流こそが人の心を揺さぶり文化力を向上させる。

 

2.異文化との交流体験の熟考と言語化

 ただし、深層部分の文化交流によって心を揺さぶられた時、それを受け身で受容して“揺さぶられっぱなし”になるのでは不十分だ。感動を言語化する主体的な作業が重要となってくる。「なぜ自分は感動したのか」「どんな文化的差異に心を揺さぶられたのか」そんな自分の心の動きを詳細に反芻して言葉に直す作業を通じて、国際交流の場で得られた感動は学びに昇華する。

 実際、国際交流プログラム実施後に参加者には1ヶ月以内にレポートの提出を義務付けているが、手を抜く学生は滅多にいない。深層文化との接触によって起こった己の価値観の転換を、必死に言語化することに額に汗を流して取り組む。

 

3.深層文化との交流→感動の支援

 深層文化との文化交流で心を揺さぶられた瞬間に「今、私は深層文化との交流で心を揺さぶられているのだ」と冷静に自覚できる学生などいない。本当に感動した瞬間、心は「言葉では表現できない」大混乱状態となり、感情を冷静にモニタリングする余裕などあるはずがない。

 そんな時、脇にいて彼らの「感情を自覚」をそっと手助けするのが私の重要な役割だった。感動のタイミングは様々、集団が一斉に感動状態を迎えることもあれば、ある学生に突然感動の兆候が見られることもある。その瞬間を見逃さないために、相当に集中して学生たちを観察し続けてきた。

 さらに付記して述べるならば、無為・無計画に外国に学生を連れて行くだけで、異文化交流が進むわけがない。気心の知れていない外国人に心の深い部分をいきなる見せるわけがない。深層文化のレベルで深い異文化交流が行われるように、プログラムは異文化コミュニケーションなどの理論に基づいて綿密に計画される。

 交流先の現地学生は36ヶ月もの長期にわたり私と共に事前準備を整えて日本人学生を受け入れる用意をしてくれている。彼らは無償のボランティアで、2週間の交流中の三食すべての食事から訪れる場所まですべて事前に徹底した準備で臨んでいる。その中には両国の学生が打ち解け、深層部分でも文化交流が進むことを目論んだイベントなどが数多く盛り込まれている。

 

4.プログラムで成長する学生

 2008年以降、今年で12年目。大変に手の込んだ異文化交流プログラムを27回もこなしてきた。プログラムで感動を体験した後に伸びる学生の共通点のようなものが見えてきた。

 上手い表現が見つからないが敢えて言うならば「まだ活躍しきれていない学生」。地道な努力が実を結んでいなかったり、キラリと光るような潜在能力を眠らせていたり。そんな「まだ活躍しきれていない」「思い悩む」学生が、このプログラムをきっかけにめざましく活躍するようになる様をなんども目撃してきた。

 それは彼ら彼女らが「感動」の体験を経たことと関係していそうだ。深層部分と交流し心が揺れ動かされる体験が、人生の大きな転機となったのだろう。

 

5.予告

 次回の記事では、今回話しきれなかったプログラムでの現地の学生のことについて語りたい。


2020年3月17日火曜日

「多文化共生時代における学生主体国際交流プログラムの考察」

1)論文について

 先日、「多文化共生時代における学生主体国際交流プログラムの考察」(URL;https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/11446/1/jinbun146-06.pdf)というタイトルで、活動を共にする大瀬朝楓さんと共同で発表した。

 本稿は2008年度から取り組んできた南アジア・東南アジア諸国での国際交流活動を、とりわけ活動が活発だったネパールとベトナムでの取り組みを例にとりながら総括したものである。

 時間がある時にぜひ論文を読んでもらいたいが、下記にも要約を載せておく。

2)論文の要約

⑴日本社会の現状

 この論文は2008年以来取り組んできた学生主体の異文化交流プログラムについての総括である。
 現在日本は国際競争力の低下、少子高齢化による労働者不足が深刻となっている。社会を支えるために「外国人労働者」に助けを求めるしか他にない状況に追い込まれ、大量の外国人が日本に押し寄せつつある。
 例えば東京都には201911日の段階で55万人以上の外国人が居住している。新宿区に限ればおよそ人口の12%が在住外国人であり、出身国の内訳をみるとベトナムやネパールなどのアジア圏の多様化が著しい。
 一方、島国で暮らしてきた私たち日本人は文化多様性の視点が必ずしも豊富とは言えない。社会からは戸惑いの声が上がっているのが現状である。

⑵多文化共生

 グローバル化が進展した現在、従来の国境を超えた人や文化の交流が促進されるようになった。これらの文化の接触は文化間の摩擦をも引き起こす可能性がある。その文化間の軋轢を軽減する流れで登場したのが、「多文化共生」である。
 「多文化共生」は、もともとアメリカやカナダ、オーストラリアなど移民国家で発祥した概念である。
 さらに西洋文明中心の教育から脱却し、多様な歴史や文化を承認しながら異なる文化背景を持つ人々を尊重する態度としてアメリカで注目され始めた。(小川,2015 
 日本においても,1990年代からブラジルなど南アメリカ諸国から移住してきた日系人やアジア諸国からの移住者が増え始めたことをきっかけに「多文化共生」という用語が使われ始めた。ただし,この用語は日本が起源と言われており西洋の「多文化主義」とは少し意味合いが異なるため英語にも翻訳しづらい(モハーチ,今井,2016))。

⑶「多文化共生」の教育での実践

 多文化共生の考え方は教育界においても注目される。文部科学省は,「広い視野を持って異文化を理解し尊重する態度を育成するとともに,日本の伝統や文化について理解を深めること」を教育目標の一つに掲げた。この流れに沿うように,海外研修や国際交流プログラムを行う高等教育機関や団体が増え,実践報告も多くなされるようになってきた。
 ただし,ただし著者の知る限りその多くは大学側や団体側によって活動内容まで細かく規定されたプログラムに学生が参加する受動的形態のプログラムに留まっているのが実態である。さらに,学習者主体の海外研修プログラムの実施やその考察は皆無と言っても過言ではない。
 そこで本稿では,著者たちが11 年間学生たちと共に取り組んできた学習者主体の国際学生交流プログラムを,ネパールとベトナムでのプログラムに特化して,プログラム発案段階から具体的な活動内容に至るまで詳述した。
 この時の学生主体の国際交流団体はAAEEである。次の項目ではAAEEについて述べる。

⑷国際交流プログラムの運営主体

 国際交流プログラムの運営主体はアジア教育交流研究機構(AAEE)であり、すべてのプログラムはAAEEが独自に開発したメソッドに基づいて形成される(詳細はAAEEのウェブページ参照のこと)。
 「グローバル人材の育成」を掲げ、とりわけ東南アジア・南アジア地域での学生交流・教育交流を積極的に推進することを志す有志団体として「アジア教育交流研究会」を発足したことが団体の端緒となる。当初は世界の未来について一緒に学び語り合う勉強会的な発想だった。
 プログラム内容は徐々に発展し、2012年以降日本の学生と開催国の学生が一定期間(2週間)寝食を共にして、参加者の多文化理解能力を高めると同時に、将来国際社会で活躍する際に共同で取り組むパートナーになれるような深い友情を育むことを目的とするものに変化している。
 2008年以降ネパール、インド、タイ、ベトナムなどアジア各国で開催されている国際交流プログラムで、ベトナムとネパールでの開催が主となっている。

⑸国際交流プログラムの流れ

 プログラムでは単に2週間交流することに留まらず、渡航前の綿密な事前準備や帰国後の報告会イベントを行うことで学習効果を最大限高めている。交流中は現地の学生と寝食を共にし、逃げ場のない状況で非日常の様々な異文化が目の前に出現し混乱しがちである。事前に相手文化の知識を得ること、事後に交流の振り返りを真剣に行うことで学びを深化させることを意図している。

  事前準備
事前準備は、渡航前に3ヶ月かけて次の三つを行う。それは、日本人参加者間の友好関係の構築すること、プログラム開催国への理解を深めること、自文化に対する理解を深めることである。

・国際交流
  報告会イベント
プログラム終了後の数ヶ月以内に日本国内で報告会を開催している。
参加した学生たちの学びの深化のみならず、経済的事情などでプログラムに参加できなかった学生たちも異文化理解の学びの機会提供という側面もある。

⑹「交流」を通じた異文化学習

 実際に交流を経験した学生たちの声を踏まえて、参加学生が何を学び・得たのかについて述べる。

①異文化理解
 他者との交流を通じて、机上の学びに止まらない異文化理解を深めることとなっている。例えばベトナムの場合は、実際に現地の学生と触れ合うことで社会の制度にまで思いを馳せるきっかけをとなることもある。
 以下にベトナムプログラムに参加した学生のインタビューを引用する。

 「ビンフック省での滞在中,わたしたち日本人の知らないところでベトナム参加者たちはベトナム政府に対して,怒りを覚えていた。彼らが怒りを覚えていたのは,あらかじめ決められていたスケジュールの変更を繰り返し行ったからである。わたしたち参加者が準備をしていたプレゼンテーションの実施が危うくなったことや,ホストファミリーとのクッキングコンテストの時間の短縮など,様々な要因が挙げられる。日本人参加者がこの事実を知ったのは,ビンフック省での滞在の終盤にさしかかったところだった。わたしは,なにか慰めの言葉をかけることができたわけでもなく,ただただベトナム参加者の言葉を聞くことしかできなかった。これが,社会主義国家での生活なのだと感じた。(ベトナムプログラム参加学生)」

 参加学生は机上で学んだ漠然とした(時に他者に対するステレオタイプ的な)知識が,交流や体験を通して自身の心に繫がる学びとなっていることがうかがえる。

②自文化理解
 また、異文化と触れ合うことで己の文化と向き合うきっかけともなりえる。
 例えばネパールを訪問した日本学生は、ネパールの学生が自国の歴史や文化、宗教について深い造詣を有している事実に遭遇し、「果たして自分は自国の文化をこんなにしっかりと説明できるだろうか」と内省するきっかけとなった。

⑺異文化コミュニケーション学習
 異文化コミュニケーションではどちらか一方的に理解を促進するのではなく、相互関係の中で尊重する気持ちを持ちながら行われることが重要である。
 実際に国際交流に参加した学生が異文化コミュニケーションから学んでいるのは大きく以下の三点であると思われる。

①他者を尊重する態度
 相手との違いを尊重しながらコミュニケーションをとる態度である。例えば、参加学生の中には英語でのコミュニケーションがうまくいかなかった体験を通じて「英語が話せるし、通じるだろう」と思っていた自らの固定観念に気づくきっかけとなった者もいる。

②積極性
 コミュニケーションに対する積極性である。
 積極的な姿勢を持ち、自ら行動を起こすことが他者との交流や深い学びにつながっていく。
 英語でコミュニケーションをとることに最初は苦手意識を持っていた学生でも、大切なのは英語の得手不得手だけではなく、物事や相手に対しての興味や疑問を抱き、積極的にコミュニケーションを図る姿勢が重要であることを学んでいる。

③非言語コミュニケーション
 友好関係を構築し、交流を円滑に進めていく上で、適切な非言語コミュニケーションは有効となる。
 特に、英語でのコミュニケーションに苦手意識を持っている学生の場合、ダンスや歌などが自分の殻を打ち破り、交流を促進するきっかけとなっていることがうかがえる。

⑻特定課題
 文化交流による異文化理解だけでなく,グローバル・イシューに関するアカデミックな観点での交流を促進するため「特定課題」を設定するようになった。
 特定課題とは学びの効果を深める目的で、国際交流中に行われる課題である。
 例えば、2018年度ベトナム―日本学生交流プログラムでは「貧困と教育」をテーマとした。参加学生は,ベトナム各地の学校を訪問しティーチング活動やインタビュー調査を行なったり,現地に暮らす少数民族の人々の貧困調査活動を行なったりした。また2019年のVJEP では「持続可能な社会と環境」をテーマに,プログラム終盤で環境に配慮した持続可能なビジネスモデルをグループごとに提案した。これは主に参加学生の要請によるものであり,年を重ねるごとにプログラム全体の中でこの調査に関わる活動の割合は増えていくこととなった。
 国際交流場面におけるこの類の活動はやりがいもある反面難易度も高まる。結果,困難を極める場面にも少なからず遭遇した。

⑼おわりに
 参加学生は肌で交流相手の文化を体験することができ、同世代の他国の学生とのコミュニケーションによって刺激を受け成長の活力に変えることができている。
 今後の課題としては、プログラムごとにテーマを設けて特定課題調査を行うにあたってはいくつかの改善の余地が見られる。